検察庁法改正についての反対意見及びこの報道に対する苦情

ブログ
OLYMPUS DIGITAL CAMERA

以下,一法学部生の私見です。

~目次と結論~

<本論>

  • 解釈の変更に伴う,高検検事長の任期延長について―解釈変更は妥当ではない。
  • 検察官の任期延長について―賛成する。
  • 検察官の準司法的性格と,政府による任期の恣意的判断の可能性―やや反対

<傍論>

  • 改正時期について コロナウイルスの蔓延との関係―反対。失当であり,このような理由で反対すべきでない。
  • 報道機関の報道について―報道機関の懈怠あり。即刻,変更をすべき。

<本論>

e-gov 法令検索 https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0100/

衆議院本会議提出時の改正案 http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g20109052.htm

本文は,黒字で,補足は青字です。

第1 解釈の変更による高検検事長の任期延長について

去る1月31日,某高等検察庁の任期が,閣議決定により,延長されることが決定されました。

参考記事 https://www.asahi.com/articles/ASN5C7GG8N5CUTFK01R.html

これについて,政府は,国家公務員法の延長規定を準用したという説明をしました。これについて,考えてみましょう。

まず,検察庁法(検察と検察官について規定した法律)の第22条には,以下のような条文があります。

第二十二条 検事総長は、年齢が六十五年に達した時に、その他の検察官は年齢が六十三年に達した時に退官する。

要約すると,

・検事総長の定年は,65歳。

・検事総長以外の定年は,63歳。

ということになります。

検事総長とは,最高検察庁のトップのことです。

検察官とは,ドラマシリーズ『HERO』などで描かれるように,主に刑事裁判において,被疑者を取調べ,裁判にかけるかどうかをかける国家公務員のことを言います。

『HERO』(Wikipedia)  https://ja.wikipedia.org/wiki/HERO_(%E3%83%86%E3%83%AC%E3%83%93%E3%83%89%E3%83%A9%E3%83%9E)

この検察官には,いくらかの種類に分かれます。

検事総長:最高検察庁のトップであり,検察組織のトップ

次長検事:最高検察庁のナンバー2.

検事長:高等検察庁のトップ。当該高等検察庁が担当する(すなわち,当該高等検察庁と対応する高等裁判所の管轄。ちなみに,検察庁は,基本的に裁判所と対応して設置されます)地方検察庁や区検察庁を指揮します。

検事:最高検察庁,高等検察庁,地方検察庁に配置されます。

副検事:区検察庁に配置されます。

です。ちなみに,裁判所に,最高裁判所,高等裁判所,地方裁判所,(家庭裁判所),簡易裁判所があるように,検察庁もこれに対応するように,最高検察庁,高等検察庁,地方検察庁,区検察庁が置かれます(家庭裁判所については,検察官が裁判に関わることはありません)。

検察庁公式HP http://www.kensatsu.go.jp/gyoumu/kensatsukan.htm

そして,この検索庁法には,この後ろに以下の条文があります。

第三十二条の二 この法律第十五条、第十八条乃至第二十条及び第二十二条乃至第二十五条の規定は、国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)附則第十三条の規定により、検察官の職務と責任の特殊性に基いて、同法の特例を定めたものとする。

これを要約すると,以下の条文については,国家公務員法の条文を適用しないということです。

・15条

・18条~20条

・22条~25条

その中に,第22条も含まれていることがわかります。これは,どういうことかといえば,国家公務員法にも定年の規定(81条の2~)がありますが,これを検察官には適用せず,検察庁法の規定を適用するということです。

これがどういうことなのか,わからない方もいらっしゃるでしょう。

法律の世界には,特別法優先の原則というものが成立します。これは,特別法と一般法で抵触するような規定が合った場合には,特別法が優先されるということです。

特別法と一般法とは何かというと,

一般法:一般的な規定を持つ法律。

特別法:ある特定の事柄についてフォーカスした規定を持つ法律のことです。

これは,相対的なものなので,ある場面について,特別法であったものが,ある法との関係では,一般法として解釈されるということはあり得ます。

例えば,民法には,雇用契約についての条文が用意されています(民法623条~)。しかし,職場での待遇や,問題等があったときに,これらの条文が使われることはあまりありません。労働法といわれる,労働基準法などの法律を使うことが多いです。

この場合,労働基準法が特別法,民法が一般法という位置づけになります。民法の雇用契約の条文は,非常に一般的で,労資関係の非対称性(つまり,労働者が雇い主よりも立場が弱いことが多いこと)をあまり反映してないので,このことを反映した労働法が使われることが多いのです。

今回の場合においても,国家公務員法が一般法,検察庁法が特別法という位置づけになると思われます。検察官は,国家公務員の1つですから,このようにして理解して問題ないと思います。

国家公務員法81条の3には,国家公務員で,定年によって退職すべき場合であっても,その任務の特殊性又は特殊な事情がある場合には,定年すべき日から1年以内であれば,引き続いて勤務させることができる,とされており,今回の高検検事長の任期延長については,この条文を適用させたものであると考えられますが,この条文については,1981年の人事院幹部の見解により,検察官については適用できないと考えられていました。

(定年による退職の特例)

第八十一条の三 任命権者は、定年に達した職員が前条第一項の規定により退職すべきこととなる場合において、その職員の職務の特殊性又はその職員の職務の遂行上の特別の事情からみてその退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分な理由があるときは、同項の規定にかかわらず、その職員に係る定年退職日の翌日から起算して一年を超えない範囲内で期限を定め、その職員を当該職務に従事させるため引き続いて勤務させることができる。

○2 任命権者は、前項の期限又はこの項の規定により延長された期限が到来する場合において、前項の事由が引き続き存すると認められる十分な理由があるときは、人事院の承認を得て、一年を超えない範囲内で期限を延長することができる。ただし、その期限は、その職員に係る定年退職日の翌日から起算して三年を超えることができない。

検察庁法第22条と対応するのは,国家公務員法第81条の2ですから,第81条の3の検察官への適用については議論があるところです。しかし,検察官法第32条の2があること等から考えると,定年については,検察官については,国家公務員法の例外と考えることが予定されていると考えるべきであって,今回の解釈変更は不当であると考えます。

第2 検察官の任期延長について

現行法においては,国家公務員の定年は,原則は65歳であり,原則を63歳と定める検察庁法とは乖離があります。

これを合わせる必要があり,今回法改正を行うと,政府は説明します。理由は,少子化に伴う労働力確保にあるといいます。

これについては,私は賛成です。

少子高齢化が進行している中で,働ける状態にあり,且つまだ働こうという意思がある人には,前線で働いて検察官の事務を処理してもらう必要があると思います。

また,年齢についても,国家公務員や一般企業の定年が65歳となっているところが増えてきている昨今において,この年齢設定は妥当であると思われます。

第3 検察官の準司法的性格と,政府による任期の恣意的判断の可能性

しかし,政府の改正案には,改正法が指定する役職にある検察官については,政府の判断で,任期を延長できる制度を新たに盛り込む方針です。

これについての当否を考えてみましょう。

結論から言うと,私は現状反対です。条文の修正が必要であると思われます。

指定されている役職は,次長検事と検事長であり,事情によっては,そのタイミングで退職させない方がいい場合というのも想定できます。そのような場合については,この条文は有効に働くでしょう。

しかし,これと対応させて考えなければならない条文もあります。それは,検察官の準司法的性格です。

検察官は,法務省に指揮される検察庁の職員ということであり,行政官です。行政官というのは,三権分立の分類に職員を対応させた場合,行政に分類される職務を行う公務員ということで,これについては,異論は唱えられていません(ちなみに,これに対し,裁判官については,司法官憲であるとされており,行政官ではありません)。

とはいえ,検察官の職務とは,他の行政官とは異なり,司法に関わるものが多くあります。この特殊性に鑑みて,検察官に対しても,裁判官までとはいかぬまでも,ある程度の独立性を与えるべきであるという議論が為されてきました。これを検察官の準司法的性格と呼ばれるものであり,これに基づいて,内閣による任期延長を認めないという従来の政府解釈が為された理由であり,検察庁法第32条の2の,「検察官の職務と責任の特殊性」に当たるものであると考えます。

これがどういうことかと具体的に言うと,例えば,政治家が犯罪に関わった場合がこれに当たると思われます。特に,その政治家が,与党議員であるとか,閣僚である場合に問題が顕著に現れます。日本は議院内閣制を採用していると評価される通り,国会議員が内閣を組織します。となると,捜査対象が閣僚であったり,与党議員であったりする場合に,内閣から圧力が働いて,検察官の捜査に支障が出る恐れがあります。もしこうした場合に,内閣と検察がべったりとくっついているとより問題になります。このような問題が極力出ないようにするために,制度上は,検察官の独立性を保とうとしているわけです。

このように考えると,今回の改正により,内閣による恣意的な人事が行われる可能性があります。ここが批判されているわけです。尤も,条文上は,

当該次長検事又は検事長の職務の遂行上の特別の事情を勘案して、当該次長検事又は検事長を検事に任命することにより公務の運営に著しい支障が生ずると認められる事由として内閣が定める事由があると認めるときは、

このように限定されていますが,内閣が定める事由ということは,政令に基づくはずですから,基本的には法の制定趣旨と反対するようなことは為されないとは思いますが。

とはいえ,若しそのような事態になった場合,法律問題が出現しないという推測から,訴訟によりその違憲性の判断を求めることが不可能であると思われますから,そうした意味で問題はあると思います。

私の意見としては,やや反対気味です。

三権分立を採った趣旨は,三権に権力を分立することにより,互いに監視させ,権力を均衡させ,特定の機関の暴走を防ぐ目的です。今回の状態であれば,これに反すると思われるからです。

とはいえ,この改正案には,有用な部分があるのも事実ですから,多少法律の柔軟性を失わせてでも,延長できる場合の事由を定めるとか,人事院の審査を常に得るようにするなどの,修正が必要であると考えます。

私は,このような修正を行えば,三権分立とは抵触しないと考えています。

<傍論>

第4改正時期について コロナウイルスの蔓延との関係

反対理由として,新型コロナウイルスの蔓延のこの時期に,とか緊急性が無いという理由で反対される方が多いですが,この主張はおそらく妥当しないでしょう。

これらを結び付けることは一切ないからです。

第2で挙げたような意図での改正ということであれば,当然にして緊急性がありますし,仮にそれでも緊急性が無いと主張されたとしても,国は緊急性だけで事務を行っているわけではありません。将来を見据えて予測的に事務を行うこともありますし,またそれも国に求められることです。

新型コロナウイルス関係の立法よりも優先されるべきでないという主張は,妥当すると思われますが,現状は各委員会での審議の段階であり,コロナ関係は通常予算委員会,この改正法は内閣委員会であり,担当が違う以上,そのようなことは言えないでしょう。

コロナでデモ活動が行えない時期に,という主張があるかもしれませんが,ネットでの表現活動が確立された現代においては,そのような主張は失当であると考えられます。

第5 報道機関の報道について

報道機関が,当初,世の中の反論などしか扱わなかったことは報道機関の怠慢であると思われます。

まず,報道機関は,政府発表等を一般国民が理解する際に,必要な情報を供給することもまた求められるはずです。そのような報道が初期においては為されておらず,ただ国民の反対の声だけをニュース等で報道していました。反対意見を報道すること自体は問題はありませんし,それ自体は求められることですが,特に大手の報道機関や,報道番組等においては,その解説等を為されるべきです。唯アンケートを発表するが如き報道は,SNS等でも行えることであり,前述の報道義務を懈怠したという批判は凡そ免れないと思います。

また,現状の報道においても,当該改正案の負の側面のみを報道しています。私が,第3で述べた通り,当該改正案が有用となる場合も容易に観念できるはずです。そのようなことがあるにも拘わらず,そうした側面を報道せず,ただ負の側面のみを報道するというのは,偏向報道に過ぎないと思われます。

このような意味で,今回の事案の報道について,報道機関にもその報道義務を懈怠したといわざるを得ず,また現在も懈怠しているといわざるを得ず,このようなことについては,改善の要求を出す次第です。

コメント

タイトルとURLをコピーしました